オオタタネコの話を、天皇は苦虫を嚙み潰したような顔で聞いていた。
『・・・まあ、神武天皇の后の、便所でホトをついたという話よりはましか・・・』
さて、話は変わる。
崇神天皇の御代、まだ日本の各地には天皇の支配に属していない豪族がまだたくさんいた。天皇は各地に軍を派遣し、そのような豪族を自分の支配下に置いていった。
そして越の国に、先帝である父・開化天皇の兄、すなわち崇神天皇の伯父にあたるオオビコを将軍として軍を派遣した時のことだった。
山城の幣羅坂(やましろのへらさか)に、一人の少女が立っていた。
オオビコが進軍しているとき、すれ違いざまに誰に言うともなく、その少女はつぶやいた。
「ミマキイリビコは、自分の命を狙おうとしている者が宮殿に出入りしているのも知らないで・・かわいそうね、ミマキイリビコは・・・」
ミマキイリビコというのは天皇の御名である。オオビコはその言葉を聞いて、不審に思い馬を引き返し、少女に問うた。
「おい、お前、それはどういう意味だ!?」
少女は
「わたくしは何も言いません」
それだけ言うと、少女はたちまちその場から消えてしまった。
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☆幣羅坂神社
京都府木津川市市坂幣羅坂(きょうとふ きづがわし いちさか へらさか)にあり、オオビコと少女の出会いの地であります。
オオビコと少女を祀ってあります。