熊野に上陸し、各地の豪族を従え、また征服しながら北上してきたイワレの一行。季節は12月、冷たい空気が張り詰める中、いよいよ大和に迫ろうとしていた。
かつてイワレとイツセの上陸を阻み、兄のイツセを射殺したナガスネビコの本拠地である。
もちろん、ナガスネビコは事前にイワレの軍が攻めてくるという情報は得ていて、大軍を用意して待ち構えていた。
今度はヤソタケルの時のような策略は通用しないだろう。正面から戦うしかない。
だが、今度はイワレも軍を準備万端整えている。
「ぴりりと辛い山椒の味はいつまでも口の中に残る。お前に殺された天の御子の悲しみも決して消えないだろう・・・撃ちてし止まん!」
将兵たちの士気も、イツセ様の弔い合戦だとばかりに最高潮に達していた。
そしてイワレの軍は大和に入った。
そしてイワレの軍が進む前に、ナガスネビコの軍が立ちはだかっているのが見えた。しかし、ここを突破しなければ、東征の目的を達することはできない。
「行くぞ!」
イワレは自ら鏑矢を射った。それを合図に一斉に矢が放たれる。矢に守られながら、歩兵は剣を抜き吶喊攻撃を仕掛ける。
敵陣からも雨あられと矢が飛んできた。互いに白兵戦を繰り広げる両陣。なかなか決着はつかない。
その時だった。急に空が暗くなり、冷たい北風が吹いたかと思うと、みぞれ交じりの雨が激しく降ってきた。
イワレの軍の兵士が叫んだ「なんだ!あれは!?」
空のかなたから、金色に光る何かがイワレに向かって飛んできているのだ。
やがて、イワレの軍の兵士たちが見たもの・・それは金にまばゆく輝く一羽の鵄(とび)だった。
金の鵄は、イワレが持つ弓の先にとまった。そしてひときわ明るく輝いた。
その光を見たナガスネビコの軍は、たちまち戦意がうせてしまった。兵はみな武器を捨て、ひざまずき頭を下げた。イワレに降伏の意思を示したのである。
戦いはイワレの勝利だった。
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☆ナガスネビコとの決戦
「いらすとや」から拾ってきた、冒頭に載せているイワレこと神武天皇の画像にも、弓の先に金鵄がとまっています。しかしこの金鵄、古事記には出てきません。
白肩の津でイワレの上陸を阻み兄イツセを殺したナガスネビコ、イワレにとっては最大の宿敵のはず。しかし、古事記にはなぜか、ナガスネビコとの最終決戦の描写はありません。
神武東征の話は日本書紀のほうが詳しく記述されています。拙ブログにおいては古事記をベースとしつつ、日本書紀も参照しながら再構成しています。