ナガスネビコの奇襲を受けたイツセとイワレの兄弟は、防戦一方だった。
うわーっ!
イワレはすぐ横で兄・イツセの悲鳴を聞いた。
振り向くと、イツセの腕に矢が刺さっていた。腕から流れ出す血でたちまちイツセのまわりは真っ赤に染まった。
「兄さん!」
慌ててイワレはうずくまるイツセのもとに駆け寄る。
イツセは苦しい息をしながらイワレに言った。
「イワレ!ここはいったん引くんだ!軍を船に戻せ!」
それを聞いたイワレは退却の命令を出し、一行は命からがら船に乗って沖合に逃げだしていった。
「兄さん・・・しっかり!」
「イワレ・・・我々は日の神の御子だ。しかし、東に向かい、日に向かって戦ってしまった。これがいけなかった。だから賎しき者どもに傷を負わされたんだ。
今から南に回り、今度は日を背にして戦うんだ!」
こうして一行は船団を南に進めることにした。
イワレは、イツセの手当をしていた。イツセの血を洗ったその海は後に血沼海(チヌノウミ)と呼ばれるようになる。
しかしイツセの出血はひどく、日に日に衰弱していった。
そして紀伊の国に到達した時だった。
突如、イツセを雄たけびを上げた
「こんな賎しきものの手傷ぐらいで簡単に死ねるか!」
・・・それがイツセの最後の言葉だった。
「兄さん!しっかりして!」
イワレは泣きながらイツセの体をゆするが、既にイツセは息絶えていた。
イツセが雄たけびを上げた海は、その後男の水門(オノミナト)と呼ばれるようになる。
イワレは紀伊の竈山に兄イツセの遺体を葬った。
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古事記中巻 神武天皇~応神天皇 目次
☆血沼海・男の水門
血沼海は現在の泉佐野市付近と言われています。また、男の水門は和歌山市の水門吹上神社の地と言われています。
☆竈山神社
和歌山市の竈山神社はイツセを祀っており、境内の竈山墓がイツセの墓だと言われています。