ここは木の国。オオアナムヂはオオヤビコの屋敷に滞在していた。まさか、ここまで異母兄たちが出雲の国から追ってくることは無いだろう。オオヤビコもオオアナムヂもすっかり安心していた。
しかし、それは甘かった。異母兄たちの執念深さは半端なかったのだ。
ある日、オオヤビコの屋敷に仕える下男が、血相変えてオオヤビコのもとにやってきた。
「旦那様!弓矢で武装した軍勢が、旦那様のもとに向かっています!」
「なに?本当か?またなにゆえ?」
「それが、お客人のオオアナムヂ様を狙っているようなのです。国境の関守が急使を立てて知らせてきたんです、間違いありません」
「そうか、オオアナムヂの異母兄が出雲から差し向けたんだな。まさか、こんなところまで・・・」
オオヤビコも、まさか遠く離れた木の国まで追ってくるとは、考えてなかったのだ。
オオヤビコはオオアナムヂを呼び、言った。
「オオアナムヂ、ここにおれば安心かと思ったが、そうもいかなくなった。異母兄たちはここまで追ってきているとの報が入ったんだ。おまえはすぐに逃げて、根の国へ向かうが良い。根の国にはスサノオさまが隠居していらっしゃる。スサノオさまはお前の先祖であり、出雲の英雄といわれて遠い国々までうわさが伝わった神様だ。きっと良い方向に導いてくれるだろう」
「わかりました、オオヤビコさま、大変お世話になりました」
オオアナムヂはすぐに裏口から逃げだしていった。
一刻後、異母兄たちの軍勢がオオヤビコの屋敷を取り囲み、一斉に矢を射ったが、既にそこはもぬけの殻だった。
前<<< オオヤビコのもとへ - 古事記の話
☆木の国
雨が多く、豊かに森林が茂っていたので「木の国」と呼ばれるようになったと言われています。後に奈良時代、律令制のもと「国名は縁起の良い漢字二文字であらわす」と定められ、「紀伊」となりました。