話を聞いたオオアナムヂは、ふうーとため息を漏らした。
「その神というのは、先に通ったぼくの兄さんたちだよ。海を渡るためにわにをだまそうなんて、よくないことを考えたね。でも、わにたちも、皮ごとはいでしまうとはひどいもんだ。兄さんたちも、苦しんでるうさぎをさらに痛めつけて、何が楽しいんだ・・・」
そういうと、うさぎに向かって
「急いで川の中に入って、体についた塩を洗い流すんだ」
といった。うさぎは言われた通り、川に飛び込んだ。
うさぎが川から上がると、オオアナムヂは河原に生えていたガマの穂を摘み取って草の上に敷いていた。
「ここによこになってごらん。すぐ元の体に戻るから」
うさぎは言われた通り、ガマの穂の上に寝転がった。うさぎの体はガマの花粉にまみれた。
すると、たちまち傷は治り、元の白兎に戻ったのだった。
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☆ガマの穂
ガマの穂から出る花粉を「穂黄(ほおう)」と言い、古代より薬として用いられてきました。含まれるフラボノイドには血管収縮作用があり止血に効果あるそうです。
(かといってケガしたところに河原に生えているガマの花粉をつけると細菌感染などの恐れがあります。やめておいて現代の医薬で治療してください)