古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

スサノオ、老夫婦と娘に出会う

f:id:karibatakurou:20190708041107p:plain

 

既に夜は更けている。

斐伊川の上流に向かって歩いていたスサノオは、一軒の家にともる灯りを見つけた。

大きな屋敷だった。この地のムラオサだろうか。

 

スサノオはその灯りに向かっていった。

その家についてみると、三人の人が家の中に座っているのが見える。

二人はどうやら年を取った夫婦らしい。もう一人はこの夫婦の娘だろうか、若い女性だった。そして三人とも肩を寄せ合って泣いていた。

 

スサノオは声をかけてみた。

 

「こんばんは」

その声ははとても穏やかで、優しかった。今までの荒々しい神の面影はない。

 

「すみません、突然・・・皆さんが泣いてるのが気になって・・・いったいどうしたのです?ここはどちら様でしょうか?」

声をかけられた三人は、はっとして顔を上げ、振り向いた。この家の主人らしき年取った男性が口を開いた。

「はい、私は山の神であるオオヤマツミの子でアシナヅチと言います。横にいるのは妻のテナヅチと、娘のクシナダヒメでございます」

 

スサノオが問いかける。

アシナヅチさん、どうしてそんなに泣いているのですか」

「はい、私たち夫婦には、もともと八人の娘がおりました。ですが・・・」

「八人?ここには一人しかおりませんが、他の娘さん方は?」

「はい、それが・・・古志にいる、ヤマタのおろちに・・・皆食べられてしまったのでございます」

「食べられた?」

「はい、ヤマタのおろちは毎年やってきては、私どもの娘を一人ずつ食べてしまいました。そして、明日、最後に残った末の娘も食べられてしまうのです。そのことが悲しいやら、悔しいやら、情けないやらで・・・それで泣いておりました」

「ほう・・・で、そのヤマタのおろちとは、どんな姿をしてるんだ?」

 

さっきまでの丁寧な口調はどこに行ったのか、だんだん元の話しぶりに戻ってきた。いや、話し方だけでない、その目は鋭く輝いていた。もともとスサノオは武勇の神だ。とてつもない怪物の話を聞いて、その闘争心を燃え上がらせたのかもしれない。

 

アシナヅチは続ける。

「はい、大きな目はまるで赤ほおずきのように真っ赤にひかり、その目を見ただけで人は恐怖で動けなくなると言います。一つの体には八つの頭と八つのしっぽがあり、体にはヒノキや杉、カズラまで生えております。谷八つ、山八つを覆いつくしてしまうほどの大きさで、腹からはいつも血がしみだしているということでございます」

 

スサノオは話を聞いても全く恐怖感は無かった。いや、それどころか、そんな怪物がいるなら自分が退治してやろう、という気持ちがむらむら起こってきた。

 

それはスサノオの純粋な男気から沸いてくるのだった。すでにスサノオは、イザナギのもとで泣きわめき、高天原で乱暴をはたらいたスサノオではなかった。数かずの試練を経て、義侠心あふれる武勇の神に変わっていたのだった。

 

前<<<  スサノオ、箸を拾う - 古事記の話

次>>>  スサノオ、求婚する - 古事記の話

 

古事記の話 目次 

 

 

☆ヤマタのおろち

 

古事記での表記は「八俣遠呂知」、日本書紀では「八岐大蛇」と表記されていますが、その姿形はアシナヅチの説明通り、恐ろしい姿をしています。イザナギイザナミは国を産むとき、こんなものまで産んでしまったのでしょうか。

 

≪リンク≫

 

カリバ旅行記
温泉の話
駅弁の話