再び黄泉の宮殿を静寂が包んだ。時がたった。イザナギは待った。もう一昼夜か、それとも二昼夜は立っただろうか、くらい黄泉の国では時間の流れが全く分からない。
「ああ、もう待てん!この手でイザナミを救い出してやる!」
イザナギは戸をけ破ると、宮殿に入った。
中は真っ暗闇、一点の光もない。ひんやりして冷たい空気に包まれ、しかしその空気は異様な物質で満たされているような、妙な感覚をイザナギは感じた。
イザナギは頭に差していた櫛を取ると、歯を一本おり、それに火をともして松明にし、奥へ進んでいった。
どれぐらい進んだろうか、横たわっている人影が見えた。イザナミだと直感した。
「ああ、イザナミ!」
イザナギは小走りに近づく。しかしたいまつに照らされたその姿を見て、うっ・・・と息をのんだ。
確かにそれはイザナミだ。しかし愛するイザナミの姿ではなかった。
体中は腐り、眼球が飛び出て、腹は破れ、蛆が沸いている。イザナミの体の上には小さな雷神が何匹もとりつき、わめいている。
さすがのイザナギも、これには震え上がった。思わずたいまつを落とした。次の瞬間、イザナギは踵を返すと、一目散に逃げだしていた。
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☆古墳について
イザナギが黄泉の国で出会ったこの光景、古墳の内部をあらわしているともいわれます。
古墳の横穴式石室では追葬、すなわち二人目・三人目と複数の親族が続けて埋葬されることもよくありました。先人の埋葬から相当の時が経っていれば遺体は白骨化していたでしょうが、それ程の時間を置かずに再び石室を開けて埋葬する事態になれば・・・
松明をともし石室の奥に進んでみると・・・
それこそイザナミのような、体中に蛆の湧いた無残な遺体が松明の火に照らされていたことでしょうね。
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