古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

古事記中巻

別れ、再び

ヤマトタケルは、ミヤズヒメの屋敷に数日の間、滞在していた。 だが、ヤマトタケルは大和の天皇のもとに復命しなければならない。 「ミヤズヒメ、きっとそなたを迎えに来る。それまでしばし、待っていてくれよ」 ヤマトタケルはミヤズヒメの手をしっかり握っ…

ミヤズヒメと再び

甲斐の酒折宮を出立したヤマトタケルは、さらに信濃の国に行き、そこに住んでいた部族を朝廷に従えた。 そして、尾張の国に戻ってきた。 尾張・・・そう、結婚を約束したミヤズヒメがいるところ・・・あれからもう、幾年の月日が過ぎた。 彼女は待っててくれ…

幾夜か寝つる・・

ヤマトタケルは甲斐の国まで来ており、 そこの酒折宮に滞在していた。 その夜、ヤマトタケルはじっとたき火の日を見つめていた。暗闇の中、燃え上がる火を見ながら、ヤマトタケルの胸によぎるものは何だっただろう・・・ 自分が滅ぼしたクマソタケルにイズモ…

吾妻はや

ヤマトタケルは東国平定を終え、その帰り道、相模と武蔵の境、足柄峠まで戻ってきていた。 足柄峠で小休止し、食事をとっていた。するとそこに一頭の白い鹿が現れた。 「む、こいつ・・ただものではないな・・」 ヤマトタケルはその鹿に邪悪な霊気を感じた。…

蝦夷を平定

ヤマトタケルは上総からさらに陸奥のほうに進んでいった。 陸奥を支配していたのは蝦夷(えみし)の一族である。蝦夷たちはヤマトタケルの威風堂々とした姿に恐れをなした。かつて稚児姿で女装したヤマトタケルだったが、今はひげを蓄えた堂々たる体格になっ…

オトタチバナヒメの入水

相武の国で、朝廷に反逆した国造を誅殺したヤマトタケル。さらに東に進み、三浦半島に来ていた。ヤマトタケルは房総半島を目指し、船に乗って出港しようとしていた。 ヤマトタケルは出港前、海を見て笑って言った。「小さな海だな、この程度なら船など乗らな…

火には火を!

相武の国造(さがむのくにのみやつこ)の策略により、枯野の真ん中で火矢を放たれたヤマトタケル。たちまちのうちに火は燃え広がる。 ヤマトタケルのまわりは火で取り囲まれ、逃げ道はなくなっていた。 「これまでか・・・」 ヤマトタケルは覚悟を決めた。 …

相武の国で

尾張のミヤズヒメと別れたヤマトタケルは、東進して相武国(さがむのくに)に来ていた。 ヤマトタケルはここでも国造(くにのみやつこ)の屋敷に滞在していた。 国造はヤマトタケルを歓迎するが、その歓迎の宴でヤマトタケルに言う。 「ヤマトタケル様・・東…

ヤマトタケルとミヤズヒメ

叔母のヤマトヒメと別れたヤマトタケルは、伊勢から尾張国まで来ていた。 ヤマトタケルは尾張国造(おわりのくにのみやつこ)の家に滞在していた。国造はヤマトタケルを歓迎し、娘のミヤズヒメにヤマトタケルを接待させた。 ヤマトタケルは単身、西国を平定…

東国に旅立つ

「・・・叔母上、こんなに大事なものを・・いいんですか‥?」 「いいのよ。草薙剣に宿るアマテラス大御神の神霊は、きっとあなたを守って下さるわ。それから、これも持っていきなさい」 ヤマトヒメは小さな袋をヤマトタケルに手渡した。 「・・これは、何で…

ヤマトヒメ、草薙剣を授ける

ヤマトヒメの前で、ヤマトタケルはいつまでも泣いていた。 どのくらいの時が立っただろうか・・・ 「・・・叔母上・・それでは行ってまいります・・」 ヤマトタケルはヤマトヒメのもとを離れようとした。その時、ヤマトヒメが言った。 「ヤマトタケル、お待…

叔母の前で泣く

ヤマトタケルは、再び伊勢のヤマトヒメのもとに来ていた。 「叔母上・・・」 「あら、オウス・・・今はヤマトタケルだったわね。西国を平定したっていうじゃない、よく頑張ったわねー!」 ヤマトヒメは喜び一杯の顔でヤマトタケルを歓迎した。 しかしヤマト…

東国平定を命じられる

西国各地を平定し、朝廷に従わない者は征伐し、ヤマトタケルは大和にに帰ってきた。 「父上、ただいま戻りました!クマソタケルだけではなく、イズモタケルやほかの朝廷に反抗する者どもを平定してまいりました!もう西国はすべて朝廷の支配下であります」 …

イズモタケルを討つ

ヤマトタケルはイズモタケルと偽りの親交を結んだ。 二人して連れ立って、斐伊川のほとりを歩いていた時のことだった。 「イズモタケルさま、なかなか立派な太刀をお持ちですね」 「おう、これか・・この斐伊川は昔から製鉄が盛んでな・・良質の鋼がとれるん…

イズモタケルに近づく

クマソタケルを討ち取った、オウス改めヤマトタケル。その帰り道、まだ朝廷に服していない各地の山や川、港を支配していた豪族を従え、平定していった。 そしてヤマトタケルは出雲国に向かっていた。 出雲国のイズモタケルも朝廷に従わず、国を支配していた…

ヤマトタケルになる

クマソタケルの兄は、オウスに一突きされ絶命した。 宴会場は大騒ぎになった。 その場にいたものは我先にと逃げ出す。逃げたものの中にクマソタケルの弟もいた。 オウスは弟を追いかけると、剣を背中から刺した。身体から血が噴き出すが、即死は免れた。 オ…

クマソタケルの兄を討つ

クマソタケルの屋敷では、新築祝いの宴会がにぎやかに開かれていた。 クマソタケルの兄弟を中心に、親族や配下の者は酒を飲みかわし、上機嫌で歌ったり踊ったりしている。その中を給仕の女官たちは、忙しく男たちの間を行ったり来たりしていた。 クマソタケ…

オウス、女装する

オウスは南九州、熊襲の地に来ていた。 熊襲を束ねているのはクマソタケルの兄弟である。オウスはクマソタケルの屋敷を訪ねていた。 屋敷のまわりは兵士が三重にも取り囲んで厳重に警備しており、とても正面からはクマソタケルを打ち取れそうにない。 そのと…

オウス、ヤマトヒメを訪ねる

兄であるオオウスを、いとも簡単に、無残に殺してしまったオウス・・ まだ前髪をひたいで結っている、稚児姿の少年である。天皇がそら恐ろしいものを感じるのは当然だった。 天皇はオウスに向かって言った。 「西のほうにクマソタケルがいる。奴が率いる熊襲…

ねぎ教え諭せ

オオウスは宮中に全く参上することは無くなった。 天皇はオオウスの弟であるオウスに言った。オウスは年の頃数え十五、まだひたいで髪を結っている、稚児姿の少年である。 「お前の兄のオオウスが朝夕の食膳の席にさえ出てこないのはどういうことであるか。…

父と子と、美女と・・

垂仁天皇の崩御後、子のオオタラシヒコが皇位を継いだ。第12代景行天皇である。 天皇が即位して、しばらく時がたった時のことである。 天皇は美濃の国造(くにのみやつこ)の娘、エヒメ・オトヒメの姉妹がとても美人だという話を聞いた。そこでこの姉妹を自…

但馬に流れ着く朝鮮王子

不思議な赤い玉を持った男は、新羅の王子アメノヒボコに捕らえられた。 王子は尋問する 「お前のような賎しいものが、こんな立派な牛を持っているわけがない。どこで盗んできた!」 「盗んだなんて、そんなことはありません!わたしは村々の田で働く人たちの…

赤い玉を産んだ朝鮮娘

さて、ときじくのかぐの木の実を日本に持ち帰ったタヂマモリ。彼は朝鮮、新羅の王子を祖先としている。 昔、新羅の国の、ある沼のほとりで、一人の娘が休んでいた。すると陽の光が虹のようにその娘の陰部に差し込んだ。そして、娘は妊娠してしまったのだ。 …

ときじくのかぐの木の実

また、天皇は臣下のタヂマモリを、常世の国、すなわち海外の遠い国に派遣させた。「ときじくのかぐの木実」を探索させたのである。 タヂマモリは朝鮮新羅の王子を祖先に持つだけあって、当時の国際情勢には明るかったのだ。 「ときじくのかぐの木実」は不老…

アマテラスを祀る

また、天皇はその治世、様々な出来事において神を祀る重要さを感じていた。 先帝である父の崇神天皇は、オオモノヌシの神を祀って疫病をしずめた。それ以来、世の平安を神に祈る重要さを感じ取り、何かにつけて天地の神をよく祀っていたのである。 そんな父…

埴輪を立てよ

天皇が愛した皇后ヒバスヒメが亡くなった。 天皇が悲しみの日々を過ごす中、皇后の御陵も完成した。いよいよ葬儀を行い、ヒバスヒメと最後の別れをしようとしていた時のことだった。 天皇の心に引っ掛かっていたのは、弟ヤマトヒコの葬儀の時に聞いた、亡者…

ヤマトヒコと殉葬

また、垂仁天皇の同母の弟、ヤマトヒコが亡くなった時のことである。 当時は主君が死ぬと、その臣下の者も生きたまま墓に埋められる、殉葬が習わしであった。死後も永遠に主君に仕えるようにと、家来の者はみな一緒に埋められていたのだった。 ヤマトヒコの…

悲劇、再び

ところで、ホムチワケの母親、サホヒメ。天皇に反乱を起こした兄のサホビコに殉じて死んだが、天王は最後までサホビメを取り戻そうとしていた。サホビメは死ぬ間際、次の皇后にミチノウシの娘を指名していた。 天皇はサホビコを攻め落としたあと、サホビメの…

蛇が追ってくる!

言葉が話せるようになったホムチワケは、ヒナガヒメと一夜を共にした。 そしてその翌朝・・・ ホムチワケの横には、ヒナガヒメが寝ている。 ホムチワケは先に目を覚まし、旭日の光に照らされたヒナガヒメを抱き寄せた。 そこには美しい少女がいるはず・・・…

ヒナガヒメと出会う

言葉を話せるようになったホムチワケ。出雲のキヒサツミから献上された料理がとても気に入り、その後しばらく出雲にとどまっていた。 そんなある日、ホムチワケは斐伊川のほとりを散歩していた。すると、川辺に立っている美しい少女に出会った。 ホムチワケ…